買収契約書のポイント

買収契約書は買収形態によって内容や争点が異なる。営業譲渡契約の場合には、引き継ぐ負債を限定できるため、買い手にとっては有利である反面、買収する資産の範囲については注意を要する。

無形固定資産や買収ターゲットの有する契約の中には買収契約書で特定しなければ引き継げないものもあるからである。株式売買契約の場合には、買い手側が偶発債務や簿外負債を引き継いでしまうリスクがある。

このように営業譲渡と株式売買それぞれの場合に存在するリスクを回避するために買収契約を作成する。

Ⅰ. 基本合意書・覚書

基本合意書は、両当事者のM&Aに対する相手の意思を確認するために作成される。両当事者が契約成立に向けて誠実に努力するという内容が盛り込まれただけでは、直ちに法的拘束力はないが、法的に責めに帰すべき違約があった場合には、契約締結上の過失責任が問われる場合がある。また、これらの書面に法的拘束力を持たせることのより(例えば、違約金の定めを設ける)、売り手がより有利な買い手に売却したり、反対に売り手が自らの財務内容をすべてさらけ出した後、買い手に逃げられることを防止することが出来る。

[内容]
①取引総額]
②買収監査の対象、期間、調査担当者]
③違約金の定め]
④前提となる条件の定め(行政上の許認可手続き等

Ⅱ. 株式売買契約書

買収監査が終了し、譲渡代金等が決定すれば、株式売買契約書を作成することになる。 その場合のチェックポイントは以下のとおりである。

①契約当事者

株式譲渡人に通常複数となる場合が多いのでその場合には、全員が株式譲渡人として署名押印し、契約書を株式譲渡人の数だけ作成し、各自が保管するのが原則である。簡便法として、株式譲渡人のうちの一人が代表として署名押印し、他の譲渡人は、委任状を作成して契約書に添付する場合がある。

②株式の譲渡手続き

2004年の商法改正により、会社は株式を発行しないことを定款で定めることが出来るようになり、この場合は株式の譲渡は意思表示のみによって成立する。ただし、第三者に株式の譲渡を主張するには、株主名簿の名義書換が対抗要件となるので契約上も株主名簿の名義書換を要件とすることになる。

③資産、財務内容の保証

M&Aでは、対象会社の財務内容、粉飾リスク、簿外負債発生リスク等があるため、次の3点について株式譲渡人に保証させることが重要である。

イ. 対象企業の財務内容が、最終に作成された貸借対照表のとおりであり、簿外の保証などの簿外債務、追徴税や加算税などがないこと。

ロ. 最終貸借対照表日から契約時点までの間に、通常の取引以外の大きな変動のある取引がないこと。

ハ. 対象企業の財務諸表が会計基準にしたがって、適法かつ適正に作成されていること。

ニ. 株式譲渡人は、ハで保証した内容について、万一相違し、これにより株式譲受人に対して損害を与えた場合には、その損害を賠償し、または譲渡株式の売買価格の修正に応じるという条件をつけて担保責任を負う旨を規定すること。

④従業員の引継ぎ
M&A後も優秀な人材を繋ぎ止めるため、その雇用条件、インセンティブ等の保証を明確にし、売り手の協力のもとに引き継ぎ策を講じる必要がある。

⑤役員の辞任と退職慰労金

M&A後に対象会社の取締役が辞任が予定される場合には、譲渡契約時に辞任届けの交付を通常行う。退職慰労金をM&A後に支給する場合には、株式譲受人による支払いの保証をすることになる。

⑥訴訟等がないことの保証
⑦偶発債務等に対する保証
⑧各種手数料の支払い

(参考文献:森信静治・川口義信・湊雄二著「M&Aの戦略と法務」日本経済新聞社)

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